辻本好子のうちでのこづち

No.167

(会報誌 2009年2月15日号 No.222 掲載)

「医療で活躍するボランティア養成講座」を
スタートさせます!!

 「賢い患者になりましょう」を合言葉に活動を続けて19年目、来年の秋にはいよいよ記念すべき20周年を迎えるこの春、念願の企画を新たにスタートさせる決意をいたしました。
 それは『医療で活躍するボランティア養成講座』です。地域の医療を地域の人々が守り、育てる、その担い手の輪を広げていこうという新たな取り組みです。講座の内容は別にご案内していますが7回の連続(連日ではなく)で、興味・関心のある回にだけの参加も可能です。医療を取り巻く周辺と時代的な流れ、そして、今日的な問題や今後の課題を学び、医療の限界や不確実性を引き受けてなお主体的に医療参加する必要を理解し、まずは賢い患者になっていただくこと。そのうえで、それぞれの地域で患者がどのように地域の医療を支えていけるのかを一緒に考える内容の講座です。

45,000件の出会いを基礎に

 COMLの活動の柱である電話相談には、これまでに45,000余の患者・家族からの相談が届きました。方向づけなど一切せず、同じ患者の立場として不安なお気持ちに寄り添いながら一緒に考えるお手伝いをする。医療の専門家でもなければ、代わって病院に交渉に出向くわけでもない、それでも幾人もの方々からの支持をいただいてまいりました。
 電話相談はいわゆる匿名匿顔、声だけが頼りの関係ながら、電話をかけさえすれば“いつもそこにいる存在”を実感していただけます。その存在を心の支えに、また一緒に考えてくれる人がいることを実感しながら、平均40分、長い場合は1時間〜2時間やりとりするなかで、——やっぱり自分で考えなければならない問題なんだ——と気づき、COMLに電話をかけたことをきっかけに主体的医療参加の第一歩を踏み出してくださる方々との出会いの場でもあります。
 COMLから何の働きかけをするでもなく、電話がかかってくることをひたすら待つだけの積み重ね。それでも届く電話には、「賢い患者になりましょう!」というCOMLの想いを懸命に伝えることはできます。COMLの電話対応の限界を了解してくれる相談者からは、対応スタッフの目線が決して上から見下ろすものではないことを敏感に感じてくださっていることが伝わってきます。専門家でないことをゆるし、横並びの同じ目線の患者の立場だからこそ一緒に考え、気づくことのなかから一つでも自らの行動を変えていこうと、COMLの想いを受け止め、支持してくださっていることも。そしてなにより、患者を支えることが決して医療者だけの仕事ではないことを教えてもくださるのです。

時代は患者の医療参加を要請

 電話相談以外にも160回以上の回を重ねた患者塾、また毎年のように開催してきたフォーラム、そして招聘くださる講演会やシンポジウムでも、「賢い患者になりましょう!」というCOMLのメッセージを届け続けてきました。もちろん、11年前に作成した『医者にかかる10箇条』をもとに、一人でも多くの方々に主体的医療参加の必要性を感じていただけるよう懸命に努力をしてきました。しかし、当然ながら出会いには限界が伴います。
 ただ、さまざまな活動を通して直接、間接に患者の立場の方々に接するなかで、最近少しずつ患者側の気持ちに微妙な変化が起きている“兆し”を感じています。1999年以降、医療事故報道などメディアに誘導されるまま急激に膨らんだ患者の漠然とした不信感が、2003年あたりにピークを迎えました。その後、病院叩きのメディアの姿勢が厚労省叩きに変わり、医療事故報道の数が減ってくると不思議に患者の漠然とした不信感が下方修正し始めているのです。ここ2年ほどはCOMLに届く電話相談の数そのものが減少し、一部の患者・家族の言動から、少しずつ冷静さを取り戻し始めていることを実感させられるようになりました。そして昨年6月、私もメンバーの一人として議論に参加した「安心と希望の医療確保ビジョン」でまとめた3本柱の最後の項には<医療従事者と患者・家族の協働の推進>が挙げられました。
 そうした時代の要請を受けて、最近、全国各地で自治体や病院協会、医師会などが主催する市民講座などで「協働の医療とは?」「患者の医療参加とは?」といったテーマで講演する機会が増えています。18年間、多くの仲間たちの支援をいただいて続けてきた地道なCOMLの活動が、それなりの評価をいただくようになった昨今。しかし、残念ながら小さなNPO法人の限界もあって、せっかくのチャンスのときにもかかわらず、いま以上に広く、多くの人々にCOMLの想いを普及させることの難しさを改めて痛感させられています。

ぜひご参加ください!

 そこで、COMLの「賢い患者になりましょう」の思いを伝える活動の底辺を広げ、地域につなげていく担い手を養成したいと、ここ数年心ひそかに温めてきた企画を昨秋の理事会に思い切って提出しました。理事会でも、わずか4人のスタッフだけで、これ以上に活動を広げることは無謀だという善意のご忠告をいただきました。しかし、なにより、いま必要なことは、患者一人ひとりが意識を変えることです。電話相談やその他のCOMLの活動で出会う人々だけでなく、地域の医療を守り、育てる担い手として、地域の人々が立ちあがる仲間の輪を広げることを支援したいのです。そのためにはCOMLと同じ想いを持つ人を養成するしかないと決意しました。景気の悪いご時勢、手を広げることでつぶれてしまうのではないかと重圧も感じていますが、ともかくこの企画は成功させねばならないと強く願っています。ぜひとも皆様のご理解とご協力をいただきますことを心からお願いします。