辻本好子のうちでのこづち

No.042

(会報誌 1998年6月15日号 No.94 掲載)

こんな医師会に出会いました

 セカンド・オピニオンという自覚もないままに病院と診療所をあちこちしながら、狭間で悩んでいるという訴えが電話相談に結構たくさん届きます。診療所と病院が連絡し合った患者中心の医療システムを“病診連携”というのですが、セカンド・オピニオンを考えるなかの重要なポイントでもあります。厚生省や日本医師会が推進を唱えたのは、ずいぶん以前。けれども実態は……?

患者が病診連携の恩恵を受けるには?

 かかりつけ医から紹介された大病院で精密検査を受け、結果の説明を受けたあと、いきなり「開業医へ返事を出すが、あんた、今後どっちへかかりたいかネ?」と言われた。いくらかかりつけ医に帰りたいと思ってはいても、大病院の医者を目の前にして「かかりつけ医の方がいい」とは言いにくい。言えば失礼になるかと、そんな遠慮もあってモゴモゴしているうち、仕方なく「ヨロシクお願いします」。不本意ながら大病院にかかっているが「そんなときハッキリ言ってもいいのか?」。そんな質問に、私は「モチロン!」と答えます。
 ほんとうに患者が病診連携の恩恵を受けるには「どうしたらいいんだろう?」と考えていた矢先。知り合いのドクターから「地域の医者仲間の勉強会にきてほしい」と声がかかり、何か手がかりが得られるかも知れないと大喜びで出かけました。

“じゃれ合い”のネットワークが土台に

 その会は毎月1回、土曜の午後4時から7時まで、10人前後が集まっては番茶とコーヒーだけで熱心な議論がおこなわれています。メンバーは30代から40代、勤務医もいれば開業5、6年目という比較的若い町のお医者さんたち。そもそもこの会がスタートしたきっかけが病診連携の問題だったと聞いて、私の胸が騒いだのです。
 患者さんを紹介し合う医者同士が、お互いの得意不得意の分野や人柄を知っておくことが“患者さんの利益につながるはず”という思いから、自分たちの手で「隣同士の医者のネットワークを作ろう」という掛け声でスタート。会合を重ねるごとに人間関係が深まり、いまでは人柄はもちろん互いの技術レベルまで「だんだんわかり合えてきて、紹介状に血が通ってきた」とか。
 話が佳境に入っていくうちに「医者に傷つけられた患者の気持ちは、医者によってしか癒されない」「患者の苦情の95%は、西洋医学で解決のできない問題」と、つぎつぎと患者にとって嬉しくなるような言葉が出てきて、なぜか私はだんだん鼻白んできました。そこで私は、あえて「あまりに理想的すぎないか。ひょっとして自己満足では?」という本音をぶつけてみたのです。
 すると「じつは地域医師会の30年の“じゃれ合い”の伝統と歴史がネットワークの土台になっている」という、おもしろい言葉が飛び出てきました。彼らのいう“じゃれ合い”とは、文字通りソフトボール大会や山登りといった身体を使った医師会仲間の親睦会。歴代の会長の人柄もあって、ともかく何でもおもしろがってはワイワイ、ガヤガヤとつねに顔見知りになる仕掛けがあったとか。ゴルフや株、さらには子弟を医者にするための情報交換は、むしろタブーとされる雰囲気が昔からあったこと。それが単に理想論を語る会ではなく、知り合いのドクターが「こんな医師会もある」と紹介したくなった理由だったのかもしれません。
 医療の基本は人対人。病病連携、病診連携、診診連携の恩恵を受けるべきは患者のはず。そして、そこには当然ながら、こうした医者のネットワークが大前提にあって欲しいと思うのも患者です。患者には、プライドがじゃまをして遊びの精神を持ったドクターは少ないように感じますが、コミュニケーションの基本である「相手を知るために自分を深く見つめ直す」意味から、じゃれ合っていただくのもいいかもしれませんネ。