辻本好子のうちでのこづち

No.036

(会報誌 1997年12月15日号 No.88 掲載)

8年目からのステップアップのために 〜4〜

 非営利団体(NPO)として8年目を歩むCOMLの課題は、あくまでも患者の立場として「患者が医療の主人公」を実践して行くこと。そして、確かな医療技術との出会いと患者の個別性が尊重される医療を求めながら、立場性と役割性さらには意見の違いを尊重し、協同できる人間関係を築くこと。患者と医療者の間に流れる、深くて渡りきれない河の“架け橋”の役割を努力します。

始まりつつある患者と医療者の歩み寄り

 月平均120〜130件、合計で約9000件にもなっている電話相談。やがて60回を数える患者塾、そして、模擬患者によるSP活動や病院探検隊など。これまで仲間たちと一緒に築いてきた、これらの活動をさらに充実させて行きたいと思います。患者が本音を語り合える場、主体的な医療参加の必要性に気づける場を提供することの一層の努力に励むこと。そして、最近、機会が増えてきた講演活動を通して、COMLの存在を知らない一人でも多くの人たちに「賢い患者になりましょう!」と語りかけ、ようやく胸襟を開き始めた医療現場には、電話相談に届いた患者や家族の体験や思いを伝えることで、患者と医療現場をつなぐ役割に努めたいと思います。
 これまで出会った、とくにCOMLの存在を初めて知ったという人たちからは「もっと早く知っていたら相談できたのに」「私たちの地域にもこんな活動が欲しい」「これからの患者が持つべき視点に気づけた」といった声が。また患者の声に耳を傾けようとする医療現場からは、「胸も耳も痛い話でドキリとするばかり。医療現場の言い分もあるが、医療者も意識を変える必要を改めて痛感した」と率直な意見が寄せられます。ほんのわずかながらも両者の歩み寄りが始まっていることを実感させられます。

COMLの次なる課題は情報整理と活用

 とはいえ、いま患者を取り巻く医療の周辺には困難性を伴った緊急課題が縦横無尽に根を張っています。レセプト開示を皮切りに目前に迫るカルテ公開など、時代の変革とともに押し寄せる医療情報の波は患者に自助努力、自己責任、自己負担、さらには自己決定を厳しく追ってきます。アメリカ式訴訟回避型の一方的な説明、形ばかりの患者の権利を尊重した責任転換にも似た医療。患者の気持ちを置き去りにした、そんな医療がひとり歩きしないためにも、今こそ患者が勇気と知恵を持って「自分で自分(の思い)を大切にする心」を養わねばなりません。 COMLもそれを応援したいのです。
 これまでの電話相談は、問題発見と解決過程への思考の援助でしかありませんでした。が、これからはもっと具体的な情報支援が求められるでしょう。もちろん固有の医療機関の紹介はしないまでも、特定の治療方法を施行する医療群や具体的な評価や情報を持っているネットワークを紹介すること。また、レセプトやカルテを入手しても理解できないために不安に陥る、そうしたつぎに患者を待ち受ける問題解決の手助けのための資料や情報を収集し、まずはCOMLがそれらを活用できる力量を備えることがつぎの課題だと思います。それが備わってはじめて、これまで述べてきたアドボカシーの精神に近づくことだと思います。
 ただ情報整備と整理、そして、それを正しく活用するためには資金確保と人材育成という難問が待ち受けます。患者の自立支援という活動が緊急性を伴っていないことや一般的に理解されにくいことで、行政や企業の支援助成が得にくい壁が立ちはだかっています。しかし、これまで多くの方々の購読支援、あるいは心のこもったカンパの総べてを注いで活動の基礎固めをしていただきました。その土台の上にどんな実力を備え、発揮するか。それが日常を預からせていただく事務局スタッフの課題であり使命だと思います。
 精一杯、日々、一歩一歩を大切に歩みつづけて行きます。どうか皆様のさらなるご支援を賜りますよう、心よりお願い申しあげます。