辻本好子のうちでのこづち

No.182

(会報誌 2010年5月15日号 No.237 掲載)

韓国講演で伝えた“協働”の必要性

初の海外講演の依頼

 4月18日、韓国ソウルのCOEX—Auditoriumの壇上に立って韓国語の挨拶から始めました。
 「ヨロブン アンニョンハシムニ力
 チョヌン ツジモトヨシコ イムニダ
 オヌン チョーデーヘ ジュショソ
 チョンマル カムサハムニダ
 (皆さんこんにちは、辻本好子です。
 今日はお招きいただき、ありがとうございます)
 日本のNPOです。1990年から電話相談で患者や家族からの苦情や不安を受け止めています。私も患者の立場です。今日は、これからの歯科医療に患者が望むことを語りたいと思います」

 昨年9月、大阪国際会議場で開催された「日本インプラント学会」で60分の講演終了後、片言の日本語で声をかけてくださったのは韓国の慶煕大学校口腔外科教授・金(キム)麗甲さん。旧字体の漢字とハングル文字が入り混じった名刺を手渡され、いきなり「来年4月にソウルで開催する私たちの学会で、今日のような内容の講演をしていただけませんか?」と、思いもかけない突然のラブコール。まさに天にも昇るような気持ちで、精一杯、感謝の気持ちを伝え、その後の連絡を待つということで夢のような立ち話は終わりました。ところが、その後、何の音沙汰もありませんでした。
 あれは夢か幻……と、半ば諦めかけていた2月中旬、突然、英語の電話が届き、山口を慌てさせたのがことの始まり。そのときすでに韓国の学会のプログラムは着々と進行し、電話は当然の流れとしての事務的連絡事項の確認だったのですから大慌て。その日から、多忙を極める事務局の日常業務に、異文化による非日常の笑い話のようなハプニングが怒涛のごとく押し寄せ、準備の忙しさに事務局が振り回されることになったのです。

せっかくの韓国語の挨拶が

 講演時間は60分、もちろん日本語でしか語れません。それでも挨拶だけは韓国語で、心を込めて感謝の気持ちを伝えたいと思い、教えてもらったメモを頼りに暗唱する心の準備からスタート。学会事務局には、講演の中身は日本語で作成してあるスライド原稿を事前に送ってハングルに作り直してもらうことと、逐次通訳がつくことを確認。しかし通訳との打ち合わせは講演直前の1時間……と、なんとも心もとない気分。韓国講演の準備に集中する余裕もないままどんどん日が迫り、初の国外講演という重責も加わり、いつにない緊張でしばしば胃痛に襲われてもいました。
 そうして立った舞台で、挨拶を始めたもののマイクのスイッチが……。日本の1000人収容規模のホ一ルは、マイクは集中管理されることがほとんどで、自分でスイッチを入れる必要はありません。事前の説明がなかったことと、私自身の注意不足もあって、せっかく諳んじた韓国語の挨拶は、結局、広い会場の誰にも届かず、自己満足で終わってしまったというハプニングのおまけつきです。

20年前の日本の医療と重なって

 そもそも昨秋、金教授から声をかけられた折、「ここ数年、韓国の歯科治療も患者からの医療訴訟が急増。しかし歯科医のブライドは高く、十分な説明のもとで患者との合意形成を必要とするという、いわゆるインフォームド・コンセントの概念はほとんど欠落している。医療不信旋風の吹き荒れた日本と同様、今後は韓国でも……」と憂いが語られました。そして、まずは提供側の意識改革のために、「ぜひ韓国の歯科医に患者の望む“納得の医療”について語ってほしい」という主旨の依頼だったのです。
 韓国の現状把握ということで事前に学会事務局に確認できたのは、①治療費の一部は保険適用でインプラントは適用外(日本と同じ)、②トラブルの多くは治療費に関する問題、③患者のドクターショッピングの増加、④コミュニケーションの欠落、などが課題とのこと。そこで、空港に迎えに来てくれた案内役の柳(ユウ)さん(29歳、口腔外科医)に早速インタビュー。すると「患者から同意書を取ることは治療上の重要なミッション(使命・任務)だが、説明しても患者が理解することは難しい」と明るく断言され、少なくとも韓国の歯科医療現場に患者の主体的参加を支援する意識のかけらもない事実を確認。無意識・無自覚の、上から目線を強く感じさせられる思いでした。
 歯科医療に限らず、最近、韓国の医療に関するさまざまな情報を目にします。たとえば、勢いを増す治験に関して、被験者(患者)の協力が得られやすい、とか。また、がん予防対策については、国民の半数が検診を受けるなど予防意識が高い、といった日本の“その筋”の権威者からの報告です。正直、これまでは、お隣の国の医療事情にさして興味も関心もなく、そうした報告を見聞きしても<追いつけ、追い越せの勢いがある国は違うなあ〜>くらいにしか受け止めていませんでした。
 しかし、わずか垣間見た歯科医療の現実から、先進国に遅れを取るまいとする国主導、形だけ整えようという医師誘導、お任せから一気に権利意識を刺激される国民など、20年前のCOMLスタート時の日本の医療が重なって見えてくるようでした。
 講演の最後に座長から、訴訟対策に(韓国に)何が必要かとの質問を受け、患者の「理解と納得」のためには医療者との協働作業という認識、そして、双方の役割分担と責任を自覚するという大きな意識改革が求められている。ぜひともCOMLのような相談機能の“架け橋”を実現してほしいと提唱して役割を終えました。