辻本好子のうちでのこづち

No.130

(会報誌 2006年1月15日号 No.185 掲載)

私と乳がん㊹

つぎは放射線治療!
医療現場の“当たり前"に当惑

 最後の抗がん剤治療から2週間たった10月9日。この日は心電図と心エコーの検査です。いつものように採血を済ませてから1階の検査室へ。受付で「11:00予約の辻本好子です」と告げると、係の人が調べてくれて「心エコーの予約は入っていませんヨ」と素っ気ない返事。「エッ、そんなはずはありません!」と詰め寄って、もう一度確認してもらったのですが、やはり予約は受けつけていないとのこと。とりあえず心電図検査だけ受けて、<おかしいな〜>と思いながら2階の外科外来へ回りました。
 外科外来で受付のナースに尋ねると、心電図の予約はドクターの机上コンピュータに入力することで予約が可能だが、心エコーは患者本人が検査室に行って自分で予約するシステムであることがわかりました。そのとき突然、「予約をして帰ってください」という前回の診察終了後の主治医の言葉がよみがえり、自分のミスに気づきました。ただ私は、この病院にオーダリングシステム(※1)が導入されていることを知っていたので、まさか心エコーの予約だけわざわざ患者自らが検査室まで足を運ぶ必要がある……という理解も認識もありませんでした。
 医療も看護も、私たち患者は決して望んで受けているサービスではありません。自分ではどうすることもできない、仕方がないから病院に足を運んでいるのです。たしかに医療現場の人たちにとって、心エコーの予約は患者本人が手続きするシステムであることは“日常の当たり前”かもしれません。しかし、患者にとって医療現場で出会うことごとくは、まったくの非日常。まして目の前で「では2週間後に……」と心電図の予約をコンピュータに打ち込んでいる主治医を見ていたわけですから、当然に心エコーも予約してもらえるものと何の疑いもなく思い込んでいたのです。
 たしかに外来には多くの患者さんが待っているのですから、ドクターがこと細かく検査の手続きまで説明する時間はないのかもしれません。そうであればこそ、案内文書を手渡すなり、外来ナースが手続きの説明を補足、確認する配慮が必要だと思いました。しかし、間違いは間違いです。ほかの患者さんに同じような失敗がないのであれば、単純に私のミスです。主治医の明確な言葉が脳裏に残っているだけに、ここは素直に非を認めるしかありません。そこで再び検査室の受付に出向いて、改めて10日後の18日に予約を取りました。
 どこかストンと落ちないわだかまりが、胸の中でくすぶっていたのでしょう。この日はとくに診察までの待ち時間が長く感じられました。ようやく名前を呼ばれて診察室に入り、座るやいなや主治医に事の顛末を報告。主治医もちょっと驚いた様子で「ごめん、ごめん、辻本さんならわかっていると思ってたものだから……」と、率直に言葉足らずを詫びてくれました。
 そして、この日の血液検査で白血球はなんと1600まで低下、免疫力がほとんど働いていない状態だと告げられました。「くれぐれも手洗いとうがいをして、人ごみを避けて、風邪など引かないように気をつけて」と、いつもにも増して強い口調で注意を受けました<ウ〜ン、とは言ってもねぇ〜>と心の中で思いつつも、人ごみを掻き分けて歩いている自分の姿が目に浮かび、それでも目いっぱいの笑顔で「ハイ、わかりました!」。

抗がん剤後の心機能はぎりぎりセーフ

 心エコー検査の再予約をした日は主治医が休診で、検査結果の説明はその3日後(10月21日)に受けることを話し合って決めました。いやはや、まさに患者になるということは、人生の“大切な時間”を奪われることにほかなりません。そして21日、治療前に76%だった心機能(駆出率)が66%という数値であった旨の説明を受けました。これは15%以内の低下で、ギリギリ「治療の必要なし」の範囲に収まっているとのこと。前回、もし20%以上の低下であれば新たな治療が必要だという説明があっただけに、内心ホッとしました。ただ「階段の上り下りで少ししんどいことがあるかもしれません」と注意があって、改めて全身に影響を及ぼす抗がん剤治療の威力を実感させられる思いでした。

副作用の説明を受け放射線治療スタンバイ

 そうして、いよいよつぎは放射線治療です。
 乳房全摘術を受けた場合にはほとんど必要はないそうですが、私は温存術でした。残念ながら温存術では、怪しげなものをすべて摘出できるとは限りません。アメリカは40〜50%、日本は30%程度を取り残しているものと考えて、その部分に放射線を照射して後から“叩く”というのが放射線治療です。私は右乳房の乳首左側にしこりができたので、「胸の方から(頚部やリンパに)上がる可能性が高い」とのこと。ただ、「抗がん剤治療を受けているので心臓には当てたくない」といった説明を主治医から受けました。
 放射線治療の副作用については、照射部分の皮膚に炎症が起きるので「しばらくは、少しヒリヒリするでしょう」。そして、「結構長い間、しびれたような感じが残る」という説明もありました。また、いわゆる永久脱毛をしたのと同じで「汗の分泌が減り、ばい菌に対する抵抗力が弱くなるので湿疹になりやすい」などの説明がありました。ただ、皮膚へのダメージは極端に減ってきているので、それほど心配する必要はないとのこと。いわゆる被曝の問題は「大丈夫なのか?」と、一応の質問をしてみると、30年も40年も放射線を続ければ500人に1人くらいの割合で誘発がんになることはあっても、私に予定されている被曝量では「何の心配もない目とのこと。あとは放射線科医とのやりとりに委ねることとして、まずは一安心。
 ともかく放射線治療は月曜日から金曜日までの5日間、一日も休まず連続5週。25回の治療に要する時間は短くとも、毎日通院しなければなりません。早朝一番で治療を受けることで仕事への影響を最小限にすることとして、ゴールを年末に定め11月25日からのスタートとなりました。

  • (※1)指示や依頼をパソコンから直接入力し、関連部門に即座に伝達するシステム。

※これは2002年10月〜11月の体験です。