辻本好子のうちでのこづち

No.083

(会報誌 2002年1月15日号 No.137 掲載)

さらに一歩深める1年に

「何をなすべきか」「何をしてはいけないか」

 あけましておめでとうございます。
 先行きの見えない不安、あまりにも衝撃的な哀しい出来事がつづいた21世紀の幕開け。こんな暗い“はじまり”を誰が予想しえたでしょうか。さかんに「何をなすべきか?」が問われて、いったいどうすればいいのかと戸惑いながら、昨年、読んだ本のなかで、とくに印象に残ったのは『金子みすヾご童謡集』。

青いお空の底ふかく、
海の小石のそのように、
夜がくるまで沈んでる、
昼のお星は目に見えぬ。
 見えぬけれどもあるんだよ、
 見えぬものでもあるんだよ。
「星とたんぽぽ」より

 『みすヾ』が気づかせてくれたのは、優しいまなざしの大切なことと、「何をなすべきか?」の裏側にもう一つの問いがあること。それは「何をしてはいけないか?」という視点です。テロも戦争も許してはいけないし、殺人を正当化してもいけない。もちろん、医療事故・ミスもあってはならない。とはいえ、人を攻撃したり批判するばかりじゃ、あまりに哀し過ぎる。でも、愚痴をこぼしているだけでは何の解決にもならない。ともかく足元をしっかりと見つめて、なにものかに操られたような均一・単純な意識と価値観ではなく、時代の流れと社会の動きを自分自身の眼差しで見据えることの大切さを改めて感じました。

嬉しかった評価の言葉

 そして、もう一つ。昨年、なにより嬉しかったのは、COMLを立ち上げる以前の私を知っていてくれる、厳しい洞察力をもったある専門家が、「COMLの活動(で積み重ねてきたこと)は、決して患者の目が一つではないことを明確に示したことにある」と客観的に評価してくれた、すれ違いざまのわずかな言葉。
 長くアメリカに学び、帰国後も日本の医療のありようを行政レベルで精力的に発言している人です。私は、広い意味でCOMLと同じ方向を目指す方と思っています。ときどき、そして、ほどよい距離からCOMLを眺めることで、取り巻く周辺にも広く目が届いているのでしょう。そうした全体を見通したうえの評価だったとすれば、私にとってこれ以上、嬉しい言葉はありません。いみじくも『みすヾ』が教えてくれた“もう一つの視点”を、これからもCOMLが大切にしなさいという激励のメッセージと受け取れたからです。
 13年目を迎える今年は、いよいよNPO法人としての新たなスタートの第一歩を踏み出します。おそらく3月か4月初旬の認証ということになるでしょう。法人組織としての形態や機構のあり方は変わりますが、とくに日常活動の何かが変わるということはありません。スタッフの顔ぶれも、ボランティアの皆さんとの協働のあり方も、まったくこれまでと同じです。
 ただ、病院探検隊やSPセミナーヘの依頼といった外部ニーズの高まり、それに伴う日常業務の膨張と限界を考えると、どうしても年内にスタッフ増員を図らねばと思っています。そして、せっかく新たなNPO法人格を得るのですから、やはりこれまでに加えたもう一歩をぜひとも創りあげたいと思います。たとえば電話相談や患者塾、そして、病院探検隊のさらなる充実。そこに加えて、昨年11月に念願かなって初めて取り組んだ「患者のためのコミュニケーション講座」の定期的な開催など。会員の皆さまのご参加とご協力を心よりお待ちしています。
 どうかこの1年が穏やかでありますよう。そして、皆さまのご多幸をお祈りして新年のご挨拶とさせていただきます。