辻本好子のうちでのこづち

No.063

(会報誌 2000年4月15日号 No.116 掲載)

もうやめませんか?“ゾロ品”表現

日本では悪しきイメージが……

 突然で恐縮ですが、薬にまつわる話の中で「ゾロ品」という言葉をお聞きになった方もいらっしゃると思いますが……。いわゆる業界の隠語で、後発品のことです。ちなみに新しく承認された医薬品、すなわち先発品は「ピカ新」とか「ゾロ新」といわれています。
 新薬の開発には、じつに10年以上の歳月が費やされ、さまざまな試験・実験を繰り返すため、当然ながら莫大な費用が注がれます。そして、厚生省の承認を得るまでには、さらなる紆余曲折を経ねばなりません。人のからだやいのちに直接、しかも甚大な影響を及ぼしかねない医薬品だけに当然といえば当然のこと。けれどもその間の情報は企業秘密であったり、行政の手の内にあるだけで公開はほとんどなされていません。発売後に問題を起こす薬が続出する原因がこの辺りにもあるのではないかと思いますが、その問題は別にして、とりあえず今回はゾロ品ということについて……。
 じつは「ゾロ品」といえども、成分や効果・効能、副作用はもちろん先発品と同一でなければなりません。先発品の再審査期間、特許期間が過ぎてから市場にゾロゾロと売り出されることで二流品というそしりをぬぐえない何とも不名誉な隠語で呼ばれていますが、先発品のノウハウを利用して生産され、承認審査の簡略化や研究開発も低コストということから、価格は先発品の4〜8割。患者の自己負担の軽減、医療費削減の目玉ということで、値引き率を高く設定してなんとか「使わせよう」と、病院の利益収入につながるような経済誘導も図られているのです。
 ところが後発品に対しては、ドクターの側にも「安かろう、悪かろう」の悪しきイメージが根強くあるようです。ある開業医によれば「大病院に患者を送るときの紹介状にゾロ品を使っていたと書けば、それだけで評判が落ちる不安がある」とか。日本の後発品の中には粗悪品も少なくなく、「まだまだ信用できる状況ではない」というのが本音であり、また実態のようでもあります。

ドイツでは患者が努力

 先日、たまたま出席したある薬物研究会で、欧米の後発品(ジェネリクス)状況を聞き、かなり日本とは違うことを知ってビックリしました。
 たとえばドイツでは、後発品がすでに十分な“市民権”を得て売り上げシェアの30.4%を占め(1997年)、医療費抑制に貢献していると、ドイツの後発品専門の製薬メーカーが説得力のある数字を示しました。さらに後発品のメリットとして「効能・効果、安全性が確立され」「同じ効果でコストが低く」「患者のニーズに合うこと」をあげ、なにより先発品との比較データを情報開示することで患者の安心と納得につながっていることを力説。もちろん“売らんかな”のメーカーが示す数字だけに、単純に鵜呑みにすることはできないと思います。しかし、それにしても日本と同様、医療財政のひっ迫するドイツでコスト意識が急速に高まっている中で、患者たちが「高い自己負担」から身を守るための努力ということで

①処方された薬剤の全部を受け取らない   49%
②めったに医者にかからない   41%
③重い病気にのみ処方してもらう   18%
④高い薬のみ処方してもらう   17%
⑤医者に再度処方を書き替えてもらう   13%
⑥価格のあう市販品に代替する   11%

という話を聞いて、これはぜひとも見習うべきではないかと、そんなことを感じさせられました。